No.1【一日一生】
2018.08.01
「現代の生き仏」と言われた酒井雄哉大阿闍梨。
比叡山に伝わる「千日回峰行」を2回も行った聖人。
数年前にお亡くなりなったが、生前、取材をさせて頂いたことがある。
阿闍梨さんとの対談が始まった当初、筆者は、質問をした。
「阿闍梨さんは、いつを見て生きていらっしゃいますか?」
「う~ん。そうねえ。自分の場合、今日一日だね。」
そして、出てきた言葉が、『一日一生』
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私は、長年カウンセリングや心理学に興味をもち、勉強を続けてきた。
企業人の研修及びコンサルタントという仕事柄、
経営者の皆さんやその社員から悩み相談を受けることも多く、
自分では「悩みや人生の問題解決には強いタイプ」と思ってきた。
しかし、30代前半の頃、ある出来事をきっかけに、情緒不安定になり、
鬱(うつ)症状が出て、気づいてみたら、いつのまにか自ら命を絶とうかな?
と考えている自分がいた・・・。
当時、我が社(以前の会社)を新体制にして約4年。
私も出資をし、経営責任者の一人になっていた。
ようやく経営が軌道に乗りだし、「いよいよこれから」という頃だった。
社長の中尾が突然、病に倒れた。
医者の見立てによると、完治の確率はわずか。
場合によってはこのまま、癌に進行し、命の保証もないかもしれないとのこと。
もちろん、即刻入院。「ストレスが大敵」とのことで、全ての仕事は、
我々だけで回さねばならなくなった・・・。
新体制以後、社長中尾の指導により、各コンサルタントは、
ようやく営業力が少しつき、研修もお客様のご要望にあわせて
カスタマイズができるようになり、ようやく力がついてきた頃だった。
しかし、資金繰りや大きな決断、人脈を生かした大手企業の営業などは、
まだまだ社長にほとんどを頼っていたのが現実。
当時、専務の日高と、社長の病院に見舞った帰途、
新大阪駅で帰り道を急ぐビジネスマンの
雑踏を横目に夕暮れのビル群を眺めながら、
二人で立っていた。
「まあ、社長の回復は運を天に任せるしかない。
俺達でとくかくやれるだけのことをやろうや。」
と語りあった時のことを今でも鮮明に思い出す。
カラ元気でそう言ってはみたものの、お互いの心の中は不安で一杯だった・・・。
それから、とにかくがむしゃらにやった。
幸い、良いお医者様とのご縁もあり、検査結果も良性とのこと、
回復の見通しも徐々にたってきた。
月に1度か2度は、病院に行き、
社長への報告と決済はしてもらえる状態にもなった。
それや、これやで10ヶ月近くが経過。
なんとか社長は回復に向かい、
自宅療養に切り替えられる見通しもついて来た頃だった。
「社長に心配かけてはいけない。いい報告が最良の薬」と
己に言い聞かせ、頑張ってやってきた日々。
しかし、自分の限界に近づいたのか、
焦れば焦るほどうまくいかなくなってきていた。
「このまま、社長が治らなかったらどうなるのだろう・・・」
思っても仕方がないことは頭では、わかっていても、
そんな不安が心から消えない。そして、また焦る。
研修や営業、コンサルティングをしていても、
集中できないことが多くなってきた。
「これではいけない」「そんな弱い自分じゃない」と
自分に言い聞かせるものの、現実の自分は弱く、
自分で自分が情けなくなってくる。
「専務も精一杯やっているのだから、
自分のことぐらい自分でなんとかしなくては!」
誰にも相談できず、益々マイナスの渦に巻き込まれていく自分の心。
ついに、夜眠られなくなり、家で仕事をしていても全然集中できず、
ふっと自殺を考えている自分がそこにいた。
当時、阿闍梨さんの対談は終わり、本の編集については、
私が全て出版社との打ち合わせ、交渉を行っていた。
その中で、目に飛び込んできた『一日一生』
対談でもこの言葉を聴き、原稿にも書いたのに、
心に迫ってきたのは、この時が始めてだった気がする。
阿闍梨さんはおっしゃっている。
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「今日の朝、生まれて、夜、眠るときには死んでいく。
今日できる限りのことをして、いつ死んでも、悔いがないように
精一杯その一瞬を生きる。
それが、また良き明日につながっていく。
いつもそう思って生きてきたんだよね。
実際、千日回峰行は、途中で歩けなくなったら、
死ななくてはいけない掟。
だから、自殺用の短剣を常に身につけているんだね・・・。」
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それから、「まだ自分はやるだけのことをやっていない。」
「とにかく今日一日をやれることを精一杯しよう」と
思い直すことができた。
ちょうどその頃、社長が自宅療養になった。
社長の症状も回復してきたし、弱い自分を社長にぶつけてみてもいい。
このまま、じっとしていても好転するしない気がする・・・
いま自分にできる行動は、まずそうすることだ。
朝、思い切って社長に電話した。
「すみません。仕事が手につかなくて・・・。
カウンセリングで言えば、鬱の初期症状で
自分でも情けないのですが・・・」
電話を握りしめたまま、涙を流していた。
「早矢仕、今週のアポイントがあったら全てキャンセルして、
今から姫路(注:社長の自宅)まで来い。」
社長は言った。すぐに家を出て、新幹線に飛び乗った。
社長の自宅に行って、半日も話を聴いてもらった。
ウソのように心が軽くなった・・・
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そんな出来事があってから、しばらく毎日続けた習慣がある。
夜眠る時、「これでもう死ぬ。」そう自分に言い聞かせる。
そして、今までの人生はいい人生だった。
自分を支えて下さった方々に感謝する。
自分の身体に感謝する。
そうしているうちに、心地よい眠りの世界に入っていく・・・。
翌朝、目が覚める。次第に意識が覚醒してくる・・・。
「ああ、また、今日一日、命を頂いた。昨日までの自分は死んだと思おう。
今日、新しく自分を生きよう。
どうせなら、明るく、楽しく、今日一日を生きよう」
そう自分に言い聞かせる。以前にもまして、一日一日が充実するようになった。