No.131 【 続・いい子症候群の若者たち〜新入社員クラスより 】
2022.04.20
長年やっていても、4泊5日クラスを担当する時は、未だに2日前ぐらいから心・頭は緊張モードに入る。まして、参加者にとって、生涯一回の機会になる新入社員クラスとなるとそれは更に高まる。
昨今の若者にDMPの考え方、目指す社員像がどれほど伝えられ、受け止めてもらえるだろうか?
ご派遣下さる経営者の皆様のご期待に添えるものにできるだろうか?
不安とドキドキと緊張感で迎えたこのクラス、さて、その結果は・・・。
「36年の担当させて頂いた新入社員クラスの中で、私の手応えでは、間違いなく過去最高のクラス」になった。
◆初日のアンケート調査
クラスの構成は、5社13名。うち男性4名、女性9名。女性の比率がこんなに高いクラスも初めてであった。
クラスの実態把握をしてカリキュラムを考えようと、研修初日に先週の稿で述べた「最近の若者の行動原則」のアンケートを実施した。(全13人中)
- 1) 周りと仲良くでき、協調性がある/10人
- 2) 一見、さわやかで若者らしさがある/8人
- 3) 学校や職場では横並びが基本/7人
- 4) 5人で順番を決める時は3番か4番目を狙う/5人
- 5) 言われたことはやるけど、それ以上のことはやらない/2人
- 6) 人の意見はよく聞くけど、自分の意見は言わない/3人
- 7) 悪い報告はギリギリまでしない/1人
- 8) 質問しない/2人
- 9) タテのつながりを怖がり、ヨコの空気を大事にする/4人
- 10) 授業や会議では後方で気配を消し、集団と化す/4人
- 11) オンラインでも気配を消し、集団と化す/7人
- 12) 自分を含むグループ全体に対する問いかけには反応しない/1人
- 13) ルールには従う/12人
- 14) 一番嫌いな役割はリーダー/3人
- 15) 自己肯定感が低い/7人
- 16) 競争が嫌い/6人
- 17) 特にやりたいことはない/3人
「協調性はあり、ルールには従うが、横並び意識が強く、自分の気配を消し、競争が嫌いで、自己肯定感が低い」傾向は、先の『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』:(金間大介著)に掲載されていた調査結果とほぼ同じ傾向であった。
また公正な分配に関する結果は 以下の通りであった。
◆今回のクラスに聞いた「どれが最も公正な分配だと思いますか?」(全13人中)
- ①平等分配 (年齢・能力などに関係なく完全一律な分配) :2人
- ②必要性分配(個人の必要性に応じて分配量を変化 ex扶養家族手当など):6人
- ③実績に応じた分配(いわゆる成果主義に代表される分配) : 1人
- ④努力に応じた分配(個人の努力量に応じた分配) : 4人
優勝劣敗が前提の企業活動で求められる「実績に応じた分配」は、なんと1人。
競争を嫌い避ける傾向がここにも見られた。
◆彼らの変化のプロセス
『初日』
緊張ととまどい、なんて厳しい研修に来てしまったのだろう・・・イヤイヤ。
『第2日』
やることの意味や目的、必要性が少しわかりだし、挑戦の勇気を各自が少しずつ発揮しだす、
会場で初めて出会った他社の仲間とのコミュニケーションも少し取れるようになり、
チームでの助け合いが見られるように・・・。
『第3日』
午前中までで、やらされ感はほぼなくなり、自主的な行動、一人ひとりが自分の壁に挑戦しだす。
午後、今回のクラスには派遣はしていないが、自身のフォローアップと人材育成の参考にと、社長クラスの方や幹部が数社数名、見学にいらっしゃった。
どの方も、彼らのありように、一様に驚きと感動を隠さなかった。
「このクラスの若者たちすごい・・・!」
『第4日』
自走式エンジンで各自が朝から走り出し、研修の最終コーナーを全力で駆け続けた。
彼らの溌剌とした言動、パワー全開の見事な挑戦、仲間を励まし、助け、思いやる言動の数々。
最終夜、各社の社長や役員、直属の上司が来場下さり、受講生一人ひとりが今回の気づきや今までの反省、
そして今からの具体的実践決意をその方々に報告した。
感極まって言葉につまり、涙を流しながら、報告しお礼を伝える受講生も・・・。
仲間の発表を聞きながら、他のメンバーも泣いている。おそらく、彼や彼女の4日間の挑戦と成長のプロセスのいろんな場面が脳裏に浮かんでいたのであろう。ティッシュペーパーのボックスが受講生の間を行ったり来たり・・・。
発表が終わると、お互いが満面の笑顔で拍手し、握手を交わし合う姿が展開された。
『友の憂いに我は泣き、
我が喜びに友は舞う』(旧制一高の寮歌の一節:元東京大学)
私が師匠から教わった明治に作られたこの詩の世界が、令和の若者たちが、目の前で行う姿がそこにあった。「人の本質は、今も昔も変わらない・・・。」改めてそう実感した。
『最終日』
朝からなんとも言えぬいい表情の彼らたち。聞くと第4日終了後、明け方近くまで、語り合っていたらしい。寝不足にもかかわらず、笑顔が溢れている。
挑戦できた充実感、自分にOKが出せた自己肯定感がそうさせたのだろう。イヤイヤ来た初日とは別人に見違えるほど、頼もしく爽やかな青年の表情と姿がそこにあった。
◆今年のクラスを担当させて頂いての教訓
1.教える側の姿勢、誠意と熱意と本気さは今の若い世代にも確実に伝わる。
2.とにかく体験させること。頭でっかちの傾向が高い彼らには長い講義をするより、体験してもらい、体感、体得してもらう。その後、講義で原理原則を説明すると深く理解してくれる。
3.競争をさける傾向だからこそ、あえて競争体験をしてもらう。しかも本気で競争したくなるゲーム感覚の環境を作り出す。
・研修では、企業単位で班でのコンテストを実施した。資料の「青年社員心得10か条」を力いっぱいの声を出して読み上げること(言力)。立礼・挙手・歩き方の姿を凛々しく美しくする(姿・動作)。
それらを全員で揃わせる、発表の組み立てを工夫する(チームワーク)。
4.本気で挑戦しての勝つ喜び、負ける悔しさの感動は、自己成長への大きなエンジンになる。
5.できる限り手を出さないで、彼らに任せ、自主的にやる環境をつくる。
真剣な取り組みを要求しながら、しかし明るく笑ってもらえる楽しい雰囲気で進行する。
6.体育会系の部活、文化系の部活などで、高いレベルでの練習を継続してやってきた人、
その中での挫折体験、理不尽な体験をしてきている人ほど、忍耐力もあり、育てやすい。
7.一日一日の小さな挑戦と成長をほめ、認め、自己肯定感が持てる体験を積み重ねてもらう。
成功も失敗も体感レベルで掴んでもらう。挑戦しての失敗は大いにほめ、自己承認できる援助を手厚く行う。
8.頑張っても人並みにうまくできない人にスポットライトをあてることを忘れず、「うまさ」より、「取り組み姿勢(今回は挑戦しているか?)」「テクニックより態度」を高く評価すること。
9. 教える側も、弱さや未熟さ、痛い失敗の体験を多く語り、威張らず、飾らず、等身大で接すること。
10.「若い人の可能性は素晴らしい」と信じること。
などである。
◆最終日
最終日の朝。彼らだけでの自主的な進行にまかせた言力を出してのチャート読みの声が、
力強く、爽やかに、私の個室まで響いてきた。
なんとも言えぬ心地よい朝の時間であった。
朝食後、最終講義のために、研修室に行くと、数名がホワイトボードの裏に何やら書き込んでいる姿が・・・。
そこには、小生への感謝やお礼、研修を通じて成長できた喜びや達成感など、彼らからの心のメッセージの寄せ書きが一面にびっしりと各色のペンで書かれていた。
至福の喜びを彼らからプレゼントして頂いた。研修屋冥利に尽きる瞬間だった。
13名の若者たち、そしてご派遣下さった各社の経営者・上司の皆様、有難うございました。
以上