No.106【 生きているということは~深夜ドライブ体験記~ 】
2021.09.22
◆真夜中の高速道路
自宅を出たのは午前3時。名神高速道路がリフレッシュ工事中だったこともあり、渋滞の少ない時間帯に移動するためだった。
大阪の手前では、小学生の頃、大阪万博に父が運転する軽自動車に乗って、家族で行ったことを思い出した。
夜が明けるまでは、秋雨前線の雨はまだ降りやまず、場所によっては、激しい雨で前方が見えにくいほどだった。
まず思ったのが、走行車両のほとんどが大型トラックであること、そしてその多さ。
深夜の高速道路はETCの利用で通行料が3割安くなることもあるのだろう。
渋滞区間では、赤いテールランプや追突防止のバックステッカーが延々と続く。
東京や神奈川ナンバー、時々東北や北海道ナンバーの車も。
いずれも何らかの形で、私たちの生活に使われる部品や製品、食材などを運んでくれている。
片側通行の暗い道路上には、工事車両を誘導する警備員、ヘルメットランプを照らして黙々と工事をする多くの作業員の皆さんの姿がヘッドライトに照らし出される。
一工事区間に、30人近い人たちが働いている。
雨合羽を着て、誰かと話すこともまれに黙々と作業していらっしゃる様子。
「冷たいこの雨の中・・・。」
山陽道、中国道では、連続していくつものトンネルが続く区間もあった。
「このトンネルを通すのに、いったいのべ何万人の人たちが関わったのだろうか?」
雨もあがり、日が昇ると、車窓から朝日を浴びる高架橋や道路沿いの貯水ダムが視界を流れていく。
山奥には、水力発電の送電線の鉄塔が何基も列をなしている。
海岸近くでは、風力発電の巨大なファンがゆっくりと回っている。
「ここも・・・ここにも・・。こんな山の中に、こんな海岸線に、こんな建造物を・・・。」
「現場作業に携わった人の中には、家族と離れて地方から出てきて、数年にわたって現場近くで暮らした人も多かっただろうな~。」
神戸の市街地近くを通過する時に夜が明けてきた。
ネオンサインが次第に消えていき、都市のビル群や鉄道の姿が浮かびあがる。
「きっと、深夜の間に、ビル設備の保守・点検を行っていた人たち、鉄道レールの工事や点検作業を行ったひとたちも多くいただろうな~。」
朝5時半頃、三田付近のサービスエリアのトイレに寄った。入り口に「清掃中」の表示。中に入ると、まだあどけなさの残る若いお嬢さんが1人で掃除を黙々としていた。
「きれいにして下さって、ありがとうね~。」
と声をかけると、ニコリと笑顔を返してくれた。
「彼女は毎日、この仕事をしているのだ・・・若いのにすごいな・・・。」
◆名もなき多くのおかげで
ドライブ中、この日本の世界有数の豊かさは、電気・水道・高速道路、河川改修や保守、そして、鉄道・地下鉄などのインフラの整備によって成り立っていることを改めて実感した。
太平洋戦争の敗戦後、瓦礫と化した日本の国土を、今の豊かさを実現するまで、インフラ建設や保守に携わる、無数の名もなき人々のご苦労があって、その尽力のおかげで、世界一安全で安心な暮らしを我々は享受している。
そして、深夜に長距離の物流をして下さる人、公共の場を清掃して下さる人、
また、ゴミの収集や処分、産業廃棄物の処理、建築現場の危険な仕事など、3Kと呼ばれ、求職者が少ない業種の仕事を毎日黙々として下さる人・・・そんな一人一人が私たちの暮らしを支えて下さっている。
「人は1人で生きているわけじゃない。誰かのおかげで生きている。暮らさせてもらえている・・・。」
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◆永六輔さんの「生きているということは」
ふと、故 永六輔さんの詩(うた)を思い出した。
「生きているということは
誰かに借りをつくること
生きていくということは
その借りを返してゆくこと
誰かに借りたら誰かに返そう
誰かにそうして貰ったように
誰かにそうしてあげよう」
「先人達が創ってくれた遺産をもらうだけじゃダメだな~。
日々の生活を支えてもらうだけじゃあ申し訳ないな~。
たとえそれがほんの小さなことでも、誰かのために役立つ・喜ばれることをコツコツと、少しでも誰かに返せる人でありたいな~。」
深夜の長距離ドライブの気づきは大きかった。
以上