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DMP徒然草

No.62【灯りを消せ】~アフターコロナの時代を生きる~

2020.08.19

◆リーマンショックの数倍の経済危機が予想される中で

 

 東証一部上場企業の28%余りが赤字決算との報道があった。(8月8日) 

 コロナショックが経済に与えるマイナスの影響は、おそらく来年にかけて、

 さらに加速していくと思われる。

 

 ANA、JALの航空大手2社も大幅な業績ダウンで赤字決算。

 

 旅行代理店の大手JTBは、代理店業務から、コーディネート業務

(企業イベントの 開催などの企画、運営などをアシストする)に業種の転換

(事業ドメインの転換)とも言えるような改革を既に始め、加速させている。

 

 既に、中小の飲食業、観光業は倒産が増えているし、他業種に影響が及ぶのも

 時間の問題と言っていいだろう。

 小生は、3~4年のうちに、地方銀行の倒産が相次ぐのでは?と

 予想している。 

 

 コロナ対策で政府系金融機関、一般銀行から無担保・無利子で資金を

 借りたものの、その後売上は回復せず、お金が返済できない中小企業が増える。

 結果、銀行はバブル、リーマンショックの時以上の不良債権を抱え込むことになるからだ。

 

 

◆リアルドラマ:『逃げるは恥だが役に立つ?!』~早矢仕の場合~

 

 今年2月下旬、コロナの影響が大きくなり、経済へのマイナス効果が

 予想されだした時、小生が最初に決めたのが、

 「名古屋事務所を引き払い、自宅の羽島に本社を移す」

 ことだった。

 

 研修そのモノが当分できなくなる可能性が高い。

 しかも、DMP研修の真価は3密のうち、密接と密集は外せない要素。

 WEBで価値提供ができる知識やスキルのセミナーとは違うのだから・・・。

 

 しかし、ためらいもあった。

 「せっかく名古屋の中心にオフィスをもったのに・・・」

 「早矢仕さん、かっこ悪いって言われないだろうか?」

 など、今考えれば、どうでもよい自分のこだわりと、

 あるかどうかもわからない・・・自分が勝手に思った周囲の声、

 それらが躊躇を生んでいた。

 

 しかし、意を決して事務所移転してから、数名の経営者の方から頂いた言葉は

 「早矢仕さん、コロナ対策ですよね。さすが決断が早いですね~」

 とのお褒めの言葉だった。

 

 「逃げてみて、恥だったこと」は一つもなかった。

 

◆臆病な自分が開き直れたきっかけは?

 

DMPを長年やっているからだと思うのだが、小生に対して

「大胆で、少しのことでは動じない」ようなイメージを

持っていらっしゃる方が多いように思う。

しかし、本当の私は、

「臆病で、いつも不安が先立ち、人見知りで、結構ビビリ」

である。

 

仕事の時は、DMPコンサルタントの役割を演じていることが多いから

前述のようなイメージを持たれるだけだと思っている。

 

だから、今回のコロナショックも超ビビった。

おまけに、以前に書いたように、昨年の年末からうつ状態が続いていたし。。。

 

「どうしよう~」

 

以前は相談にのってくれたり、最終決断をしてくれる中尾さんが

隣にいた。しかし、今はいない。

 

決断する内容からして、親しいお客様でも相談することではなく、

経営の意志決定を「一人で決めなくっちゃ!」って状況。

 

行き着いた私の考えは、

「シンプルに考えよう。

 この先当分、売上の見通しが立たないのだから、固定費を徹底して削ること」

 

→固定費で大きいのが、名古屋事務所の家賃と、小生の給与。

 

→2つとも削っても、DMPの存続には問題はない。

 

→取りあえず、羽島の自宅に避難して、その先のことは、

 ゆっくり考えよう。

 

→3月末には事務所を引き払い、引っ越しをしよう

 

こんな流れだった。

 

決めるまでグチグチ悩むけど、決めたら新幹線「のぞみ」のスピードで動くのは

私の得意技(長所?)である。

 

以下は当時の振り返りである。

 

◆コロナショックの自分の不安の内容を整理してみた。(紙に書き出した)

 

1)要するに、まず「衣食住」の不安。

 

 →このまま、来年も研修ができなかったら、生活をどうしよう。

 

 →しかも、私は頭でっかちで、つい先読みをしすぎてしまう。

 不安要素の中での先読みは、マイナス要因しか思いつかない。(後述)

 

 【対策】

 

 a) 会社のお金、個人のお金の現状をプラスとマイナス、全て洗い出した。

 

  b) 月々最低いくらあったら、仕事と生活ができるのか?を計算した。

 

  c)結論:

 このまま研修の仕事がなくなり、収入が途絶えたとしても、子供も独立済み。

 贅沢をしなければ(ご飯とお味噌汁 他1品)であと5年はなんとか生活できる。

 

 →そのうち、年金がもらえる年齢になる。

 

 →生きていくだけなら、大丈夫だ。心配ない。

 

2)「今までの基準で守ろう、維持しようとしている」

 

 ・今までのような「仕事の質と量=売上と利益」を出すことを基準に考えていた。

 

 ・今までと同じような生活水準を維持することを基準に考えていた。

 

 「今までと同じように・・・」。しかし、状況はそうならない可能性大。

 でも、「今までと同じ」を求めるから、悩み、苦しくなるんだ。

 

 →なんのために、「今までと同じ仕事の質と量がいるの?」(目的)

 

 →それらを捨ててしまったらどうなるの?(想定される結果)

 

 →いっそ、「今までと同じ」を捨てて、

 自分らしい、新しい基準(価値観)にチェンジする人生の方が

 ラクで楽しくなるんじゃない?!

 

3)「ピンチをチャンスに」

 

 従来の宿泊研修などができなくなったこの機会に、

 若き頃からの夢だった、自然の中に、寺小屋をつくって

 そこで自給自足的な暮らしをしながらやっていけば、

 経済の問題もなんとかなるし、自分も楽しくなりそう!

 

 

◆捨てたらラクに、楽しくなりだした!

 

 上記のように、現状と起こるかもしれない未来のマイナス要素を客観的に洗い出し、

 それを受け入れたら、発想が少し前向きになりだした。

 

・「一体何をこだわっていたんだろう?」

 

・「独立してからの3年、売上・利益はそこそこあげられたが、

 以前のように仕事を心から楽しめなかったのはなぜなんだろう??」

 

・「一人でやっているプレッシャーの中で、

 『やらねばならない』気持ちだけで、仕事してたかも?」

 

・「そもそも、なんのために俺はDMPやっているんだ?原点は?」

 

・「いろんな葛藤をし、悲しい想いもしながら、独立したのは、

 なんのためだったんだ?」

 

・・・自分との対話がどんどん広がり、深まっていった。

 

知らぬ間に、「周辺の人がどう思うか?」など考えもしなくなっていた。

 

ひたすら、自分と対話し、己の中の欲、弱さやずるさ、傲慢さ、

一方で、自分の強みや頑張ってきたこと、誇れること・・・

 

マイナスとプラスの両方を、ごまかさないで見つめることを自分に課した。

 

見えてきたのは、

「己のこだわり、面子、意地、周囲の評価を気にする・・・『いい人、すごい人』と

 思われたい自己承認欲求の強さ・・・」。

 

そんなものが自分をしばり、萎縮させ、本来、私が持っているやんちゃ坊主のエネルギー、

自由闊達さを阻害していた。。。

そして、迷いや悩みを生み出していた。(自分で作り出し、引き寄せていた。)

 

「己の我執(とらわれ)」を捨てることを仏教では「放下(ほうげ)」といい、

悟りへの道と教えている。

 

 

◆不安は未来からやってくる

 

 脳は自己防衛本能を強く備えている。

 

 従って、今後の不安や生存の危機につながるような、

 悲観的な情報ほど先にキャッチし、多く集めるように働くようにできている。

 

 2月下旬の小生の状態はまさにこれであった。

 

 自宅への引っ越しが一段落した後、

 

 ・毎朝、坐禅(またはマインドフルネス)をする。

 

 ・自宅横をながれる長良川を見ながら、のんびり散歩する。

 

 ・朝晩、愛犬のラブラドールの調教訓練を兼ねて

 広い運動公園に行って、カラダを動かし、空や緑を眺める。

 

 ・ロードバイクに乗って風を、自然の匂いを感じる。

 

 ・庭の芝生の手入れする。草花を植える作業をする。太陽をあびて汗を流す。

 

などを意識的に続けてみた。

 

その日々の中で、

「今ここ、今日一日を楽しむ。未来のことは考えすぎない。流れにまかせる」

 

「未来のことはどうせわからない。不安を勝手に引き寄せないようにしよう!」

 

それを意識して過ごすようにした。

 

グッスリ眠れるようになった。

この数年なかったほどの熟睡感で目覚める朝(早暁)が多くなっていった。

 

「いっそのこと、仕事がない、『毎日が日曜日』の暮らしを楽しもう。」

 

「働きだしてから初めての長期休暇を 神さまから頂いたと受け取ろう。」

 

 GWの中頃に、なにかスイッチが変わった。

 

 GW明け5月中旬には、あれだけひどかった、うつの状態が、嘘のように消えていった。

 

 

◆「灯りを消せ」

 

 精神医学界の大家、京大名誉教授の河合隼雄先生の『こころの処方箋』(新潮文庫)

 の一章に「灯を消す方がよく見えることがある」(同書P114)がある。

 

 要約すると以下のような話。

 

 何人かの人が漁船で海釣りに出かけ、気づいたら夕闇に。

 おまけに潮の流れが変わって方角も分からなくなる。

 月も出ていない。

 灯り(たいまつかも?)を掲げても方角がわからない。

 

 そのうち、一同の中の知恵のある人が「灯りを消せ」と言う。

 

 不思議に思いつつも、気迫におされて消してしまうと、あたりは真の闇。

 

 しかし、目が闇にだんだんなれてくると、全くの闇と思っていたのに、

 遠くの方に浜の町の明かりのために、そちらの方がぼうーと明るく見えてきた。

 そこで、帰る方角が分かり無事に帰ってきた、

 

という話。

 

 先が見えない、迷い、混乱した時、一度、今までの灯りを手放してみる。

 真っ暗の環境に自分の身をおいてみる。

 

 すると、その内、ぼうーと明るさが見えてくることがある。

 

 「灯りを消す」=「こだわりを捨て、ゆっくり、じっくり見つめてみる。」

 

 すると、仕事や人生の「この先の灯り」が見えてくることがある。

 

 

◆アフターコロナの時代を生きる

 

 経営者は、一度、「我社が倒産した」と考えてみる。

 今までの事業計画も全て捨てる。

 

 社員の方は、一度「会社を辞めた」と考えてみる。

 

 既婚者の方は(これは、ちょっと危険だが(笑))、

 「一度離婚した」と考えてみる。

 

 など、今持っているもの、あるものを一度捨てて(暗闇に身を置く)、

 再スタートを切る場合をシミュレーションする。

 

経営者の方は、倒産し、今から再度起業するなら、

 

・どんな事業をやりたいか?(どんな事業が儲けられるのか?)

・本社はどこに置くか?

・今までの社員は全員解雇した上で、再雇用するなら、誰だけは一緒にやりたい(残す)か?

・どこに立地するか?

・社員構成はどうするか?(正社員とそれ以外の契約・請負の社員、派遣・・・)

 

そう考えてみると、知らず識らずに陥っている思考と行動のマンネリズムに気づく。

 

経営(人生)のぜい肉、中性脂肪(コレステロール)があぶり出される。

 

ホントに「やりたいこと」、「やらねばならないこと」がシンプルに見えてくる。

 

「灯りを消す」から、希望の光がぼうーと見えてくることが人生にはある。

 

「ピンチをチャンス」にするには、一度捨ててみる覚悟がないと、

チャンスにはならないのかもしれない。

 

コロナショックの今、経営も人生も一度捨ててみると、

新たな可能性(チャンス)が見えてくる。

 

今後の経済の混乱が高い可能性で予想される今、

多くの人にとって、「自分らしい仕事や人生のありよう」を問い直す

好機(チャンス)が到来している気がしてならない。

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